
遺言がなかったばっかりに……。
- 相続手続き(遺産分割・預貯金・不動産)
- 2025/12/19
- 2025/12/19
遺言を書いていなかったばっかりに……。
「遺言なんてとんでもない。死後のことなんて残された家族が考えることです」
そんなことをおっしゃる方、本当に多いのです。
そんな方が亡くなられた後に実際起こったお話です。
穏やかで、理知的な旦那様、でも遺言だけは作成拒否
依頼者は80歳代の上品な奥様、86歳でお亡くなりになった旦那様との間にはお子さんがいらっしゃらず、ご夫婦だけの家族でした。相続登記を依頼され、打合せにうかがったところお宅のお仏壇には、理知的で温厚そうな旦那様の遺影がありました。
「主人には生前からずっと遺言を書いてほしいって言っていたんですよ。でも主人は『そんなの必要ない』の一点張りで遺言も残さないで亡くなってしまったんです」
残された相続財産は古い団地の一室とそれほど多額ではない預貯金のみでした。
11人以上いる!
あらかじめご用意いただいた戸籍謄本の束を拝見していると、奥様が心配そうに「主人の兄弟ってほんとに多いでしょう」とのぞき込まれます。
こちらのようにお子さんがいらっしゃらない場合、第2順位のお父様お母さまと奥様が法定相続分を取得することになりますが、旦那様のお父様やお母さまはずいぶん昔にご逝去されています。そうなると、第3順位のご兄弟と奥様が相続人になりますが、ご逝去されている兄弟を含めて旦那様のご兄弟は8人!そのうち旦那様より前に亡くなられた方でお子様がいらっしゃる場合、代襲相続と言って相続人の中に加わってくることになるので、相続人は10名をゆうに超える数になります。この全員と遺産分割について合意しなければなりません。今後の進行を考えて、財産額の調査が終わったら、相続人の方に意向調査のご書面を差し上げようということになりました。

なぜ成年後見人を!?
財産目録を作成し、相続分を取得するか否かの意向調査の書面をそれぞれの相続人にお送りしました。それに対する返答の中には旦那様のご逝去を悼み、残された奥様を案ずる文面を同封して相続分を奥様に譲渡してくださった方もいらっしゃいましたが、中には「もらえるものはもらいたいので、相続分の主張をします」とおっしゃる方も。そんな中、一本の電話が入りました。
「私は義母の介護をしている者です。そちらの事務所から義母宛てに書面が届いたが、義母は今ずっと寝たきりで、意識がない状態になっているのです。」
再度お名前と戸籍謄本を確認すると、義母というのは旦那様のすぐ下の妹さんです。このような場合、すぐ下の妹さんに成年後見人を選任しなければなりません。お義母様に成年後見人を選任する必要があるのですがと申し上げるそばから、
「遺産についての意向調査というから電話をしたのに、成年後見人を選任しないと遺産分割ができないと言われても困る。こちらが申立をしなければならない理由がわからない」
とのお返事。義理の息子さんにとってもまさに寝耳に水でしょう。後見申立をして、身内ではなく弁護士会などに選任依頼された成年後見人が選任された場合、毎月の報酬費用が発生します。義理の息子さんは「もしも家庭裁判所の調査官がきたら、ゴネてやる」と言って電話が切れました。
しばらくするともう一本電話がはいります。財産目録の見方が分からないとのお問い合わせです。見方を説明したところ、こんなことを切り出されました。
「ぼくの相続分がいくらなのかを、そちらの事務所で証明書をだしてもらえませんか」
当事務所は裁判所ではないので、個別に相続分がいくら認められるかは証明できないことをお伝えしました。このように親戚とはいっても疎遠な関係であったり、顔も知らない遠縁であったり、もともと不仲である場合等、全員が協力的であるとは限りません。
遺言書があったら……。
ここまで書いてきて、もし「全財産を妻に相続させる」という一文がはいった遺言書があったら、と思います。それならば相続人の皆さまに書面をおくることもなく、遺言書と戸籍謄本が数通で相続登記が完了していました。時間も費用も数分の1で済んでいたことでしょう。しかし、遺言をのこさなかったことで第三順位のご兄弟およびその代襲相続者にまで意向調査の必要が生じ、はては、この相続さえなければ必要がなかった成年後見人選任手続や遺産分割調停手続まで必要になりました。実はこの話まだまだ続くのです……。
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