余命宣告されている人の遺言
- 相続手続き(遺産分割・預貯金・不動産)
- 2022/8/23
- 2022/8/23
遺言:余命宣告されている方のケースをご紹介
遺言と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。「もう明日も知れない状態になってから、家族を枕元に集めて……」というのは、古いドラマを見過ぎなのかもしれません。しかし、言葉では理解しているつもりでも、感覚はこのままである人が多いのも事実です。
「遺言を書いてくれと頼んだら、『俺はまだ死なない』と怒られた」
などという、笑い話にもならない実話は結構身近に存在します。遺言は、基本的には元気で意思がはっきりしているときにしておくものです。しかし、例外もあります。意思はしっかりしていなければいけませんが、体力的に「もう長くない」と言われてしまった不幸なケースなどがこれに当たります。
叔父様が倒れ、緊急搬送:相続はどうなるのか
独身の叔父が、倒れて入院してしまった……甥にあたる相談者は、今からでも何かできないかと来所されました。
相談者は叔父の家に月に1回以上通って世話をしており、叔父からも「財産はお前にやる」と言われていたとか。叔父様はひとまず日常会話ができる程度には回復しているそうですが、主治医からは「末期の癌で、余命は半年以内か持って1年」と言われました。主治医によると、実は叔父様本人には以前から余命を伝えてあったそうです。叔父様も負担をかけさせたくないという思いから黙っていたのかもしれませんね。
相談者同伴のうえで、入院先の病院に出かけて叔父様にお会いしてお話を聞いたところ、「どうしても甥に」という意志の強さを感じました。
遺言の注意点:遺言者の意志がしっかりしているうちに
叔父様の意志を確認したところで、急ぎ遺言作成に取り掛かりました。万が一のために自筆証書遺言を書いておくようアドバイスしたあと、公正証書での遺言作成を目指します(相談者によると、その日のうちに自筆証書遺言をしたため、封印ののち手渡されたそうです)。
自筆証書遺言があればひとまず安心ではありますが、相続人が兄弟姉妹と甥(相談者)などで関係が遠いことや、遺言に不備があった場合などに備える意味もあって、公正証書での作成を進めていきました。
公正証書遺言作成へ その1:公証役場に意思のお伝え
今回は、入院先の病院への出張が必要になってきます。公証役場は居住地等に関わらずどこでも受け付けていただけますが、今回はその病院から近い役場を優先で選びました。戸籍など必要書類を揃えたうえで、叔父様の意志を伝えて文案を作成していただきます。
公正証書遺言作成へ その2:公証役場との日程調整
公証役場の担当の方と連絡を取り、出張していただける最も早い日程をお願いしました。相談者からは、どの日程でも有給休暇を利用して優先で対応するとの了承をいただいています(本来であれば遺言作成は遺言者のみ予定が合えばいいのですが、病院側から面会の際は家族の立会を求められていました)。
日程調整の結果、ご相談をいただいてから2週間後、私達職員2名が証人となり、遺言作成を行うこととなりました。公正証書遺言作成へ その3:病院との調整
ここは相談者から伝え聞いた話です。新型コロナの影響で、当然ながら病院も感染対策が徹底されています。当初は、家族である相談者以外に公証人と証人2名の計3名の「部外者」を病室に入れることに難色を示されたとのことです。これは病院の立場からすれば納得できる話ですよね。このところは制限も緩和されつつありますが、それでも患者さんのことを考えれば必要な対策は打たなければなりません。まして、この当時は緊急事態宣言も出て最も厳しく制限をしている時期でした。
しかし、叔父様の意向は病院も把握しており、担当の看護師さんをはじめとする現場の皆さんからも「何とかしてあげたい」という気持ちが伝わってきたそうです。そこで、看護師さんの指示のもとで感染対策を徹底し、距離を保ち行うことで納得していただきました。公正証書遺言作成へ その4:作成
病室の入り口で消毒を行い、病室に入ります。病室にはボードが持ち込まれ、公証人の先生だけがベッドの傍でお話をして、証人である私達は入口付近の離れた場所から作成を見届けることとなりました。遺言書案に同意してサインをいただき、叔父様の「お仕事」はこれで終了です。
初めてお会いした日から「たった10日」ですが、叔父様は前回お会いした時以上に痩せて小さく見えました。体力の低下が見られるようで、ご負担をおかけしたことと思います。そののち、見届けた私達証人の署名押印も終え、正式に作成となりました。
遺言書作成のその後
翌日、相談者よりお電話がありました。叔父様は「間に合って良かった」とつぶやかれていたとか。叔父様としても、最後の力を振り絞っていたのかもしれません。
そこから2カ月ほど経ち、叔父様が亡くなられたことを知らされました。法定相続人となる他の兄弟姉妹の皆様も、遺言を見て納得されたとか。相談者とは相続手続きの際お話をしましたが、他の皆様から「自分達は遠方にいて、ご時世もあって何もできない中、お前がいてくれてありがたかった。遺産は当然お前がもらうべきだ」と言われ、感謝されたそうです。
お話のとおりであれば、財産分与だけを言えば遺言がなくても同じ結果だったのかもしれません。しかし、他のご兄弟も皆高齢です。遺言によって遺産分割協議書など一連の相続手続きの手間を省けた分、ご兄弟の皆様に負担をかけず済んだことでしょう。
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(担当:永井)
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