遺言書と遺言代用信託(家族信託)

遺言代用信託とは

遺言代用信託とは、家族信託(民事信託)の活用による、遺言書の代わりとなる信託契約です。
遺言代用信託(ゆいごんだいようしんたく)という信託契約により、遺言と同等の効力をもたらすことができます。
手続きとしては、遺言のような手続き方法が厳格に求められるわけではなく、当事者の契約により効果が発生します。
遺言代用信託の内容は、下記の信託法90条に定められています。

遺言代用信託を使うケース

遺言代用信託が活用できる事例としては、遺言書ではできないことをしたいという場合です。
たとえば、

  • 遺言の内容が撤回できないようにしたい
  • 委託者の死亡後にすぐに効力を発生させたい
  • 遺言書が無効になるリスクを抑えたい
  • 遺言の内容を数世代にわたって適用したい(後継ぎ遺贈型信託)

といったことを実現するために使うことができます。

遺言書と遺言代用信託の違い

遺言書と遺言代用信託の大きな違いは、遺言は遺言者の単独行為であるのに対し、遺言代用信託は、信託契約という契約(遺言代用信託契約)によることになります。
遺言の場合は、公正証書遺言や自筆証書遺言など、民法の法律によって要式が定められており、それを外れた遺言書は無効になってしまいます。

また、遺言は撤回をして、取りやめることができるという点があります。
民法で、遺言の撤回について規定されています。

(遺言の撤回)
第1022条  遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

また、遺言が二つ以上あり、内容が抵触している場合は、最新の遺言が有効とされ、前の遺言は撤回したものとみなされてしまいます。
この規定があり、複数の遺言書が発見されることにより、相続問題の紛争が起こったりすることもありました。
京都の有名な一澤帆布では、遺言書が複数見つかったことにより、遺言の有効性が裁判で争われることになりました。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条  前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2  前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

他に、遺言をした遺言者が、わざとその遺言の目的物を破壊したような場合についても、その部分について遺言を撤回したものとするという規定もあります。

(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第1024条  遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

そして、これらの遺言の撤回をしないように、撤回する権利自体を遺言者に放棄させようということはできません。
遺言の撤回権を放棄できないよう、民法1026条に禁止規定が設けられています。

(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第1026条  遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。

このように、遺言書の撤回については、遺言者の最後の意思表示を尊重するという趣旨から、民法上では手厚く尊重されているということがよくわかります。

遺言代用信託は遺言の撤回を制限できる

しかし、遺言代用信託は、あくまで契約であるため、当事者の契約内容により、この撤回権を制限したりすることができるのです。

信託法
(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
第90条  次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる
一  委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
二  委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
2  前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

信託法90条の本文では、遺言者に相当する委託者は、受贈者にあたる受益者を変更することができると定めています。
しかし、ただし書きにより、「信託行為に別段の定めがあるとき」については、その変更をする権利を制限することができるのです。
そのため、遺言とは違い、受益者の変更という権利を制限することもでき、確実に財産を相続や遺贈などで承継することができます。

遺言代用信託の事例

遺言代用信託を活用できる事例として、たとえば、信頼できる人に財産を信託して、自分が生存している間は、委託者を受益者とする。
そして、委託者が死亡後の受益者として、委託者の子どもなどを指定することで、遺言と同様の効果を発生させる、ということができます。

遺言を数世代にわたって効力を持たせたい

遺言代用信託のメリットの一つとして、「受益者連続型信託」という活用事例もあります。
受益者連続型信託とは、後継ぎ遺贈型信託とも呼ばれます。
当初の受益者だけでなく、2番目の受益者、3番目の受益者というように、子どもだけではなく、孫の代まで遺言としての効力を残す信託契約です。

一般の遺言書の場合は、たとえば子供に財産を相続させるとした後に、その子どもがどのように財産を処分するかまでは指定することができません。
しかし、この遺言代用信託を用いれば、親から子に、子から孫に、という世代を超えた資産の承継を行うことができます。

遺言代用信託の注意事項

ここまで見てきたとおり、遺言代用信託の実質は、遺贈や死因贈与と同様の性質を持っているため、遺留分減殺請求の対象になるとされています。
遺留分対策として遺言を考えているような場合には、信託契約による場合でもその点の考慮は必要となりますので、ご注意ください。

遺言代用信託契約の費用

遺言代用信託を含む家族信託の手続きにつきましては、料金プランのページをご覧ください。
遺言代用信託は、ページ下部の家族信託の欄をご確認ください。
 

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